Abstract ― 要旨
ガンダムマーカーを塗った。
はみ出した。
消したい。
問題は、その次である。
何で消す?
専用品を使うのか。
Mr.カラーうすめ液なら全部解決するのか。
家にある消毒用アルコールでも仕事をするのか。
水で拭けば、何か都合のいい奇跡が起きるのか。
人は失敗した瞬間だけ、急に化学へ期待する。
そこで今回は、ガンダムマーカー・メタバイオレットを塗装した試験パーツを用意し、8種類の方法で拭き取り性能を比較した。
さらに乾燥時間を、
1時間
と
24時間
に分ける。
塗料は時間が経てば強くなる。
では、どこまで強くなるのか。
そして人間は、どこまで過去を消せるのか。

Background ― なぜ拭き取りを比較するのか
ガンダムマーカーは手軽だ。
キャップを外せば塗れる。
筆もエアブラシもいらない。
だからこそ、少し油断する。
モールドからはみ出す。
広い面でムラになる。
「ここだけ消したい」という場所が出てくる。
だが、拭き取り方法を調べると候補はいくつもある。
問題は、
「落ちるかどうか」だけでは足りない
ということだ。
塗料は落ちた。
しかしツヤも消えた。
プラスチックまで荒れた。
それでは勝ったのか負けたのか分からない。
そこで今回は、単純な除去力だけではなく、
・落ち方
・拭きムラ
・ツヤの変化
・素材への影響
・乾燥時間による差
・コントロールのしやすさ
まで含めて比較することにした。
Objective ― 目的
本実験の目的は、
ガンダムマーカーの拭き取りには、どの方法が実用的なのか
を確認することである。
強ければ正義、ではない。
模型で必要なのは、
残したいものを残し、消したいものだけを消すこと
である。
全部消すだけなら話は早い。
模型という趣味は、そこまで親切ではない。
Materials ― 使用したもの
今回比較したのは以下の8条件。
- タミヤ エナメル溶剤
- Mr.カラーうすめ液
- 消毒用アルコール
- 水+ティッシュ
- Mr.ウェザリングカラーうすめ液
- アルコールウェットティッシュ
- そのまま
- ガイアカラー T-06M
塗装には、
ガンダムマーカー GM19 メタバイオレット
を使用した。

全部、似たような透明な液体に見える。
だが中身は違う。
人間も液体も、見た目だけで仕事を判断してはいけない。
Methods ― 方法
同一キット由来の試験パーツへ、ガンダムマーカー・メタバイオレットを塗布。
トップコートは使用していない。
乾燥時間は、
1時間
および
24時間
の2条件とした。
拭き取りは綿棒などを使用し、できるだけ同条件になるように実施。
必要以上に力を入れない。
落ちないから強く擦る。
それを始めると、溶剤比較ではなく腕力測定になるからだ。


これがBaseline。
つまり、何も消していない状態である。
ここから、何が残り、何が消えるのかを見る。
Results ― 結果
1. タミヤ エナメル溶剤
今回の条件では、大きな変化は見られなかった。
少なくとも、
ガンダムマーカーを積極的に落とす用途には向いていない
という結果になった。
「エナメル溶剤」という名前には、何かを溶かしてくれそうな迫力がある。
だが名前だけで戦争には勝てない。
用途が違えば、仕事も違う。
2. Mr.カラーうすめ液
よく落ちた。
これは明確だった。
ただし、代償も見えた。
拭いた部分にはムラが残りやすい。
ツヤも失われる。
液が流れた部分にはくすみも見えた。
つまり、
敵は倒した。だが街も少し壊した。
そういう強さである。
除去力は高い。
だが、精密修正という意味では慎重に使いたい。
3. 消毒用アルコール
今回、かなり面白かったのがこれ。
模型専用品ではない。
それでも、予想以上に落ちた。
1時間乾燥では比較的素直に除去できる。
一方、24時間乾燥すると落ちにくさが目立つ。


1時間の塗料は、まだ帰る場所を探している。
24時間の塗料は、
もうここで生きると決めている。
そんな差に見えた。
とはいえ、比較的広い面を穏やかに修正する用途ではかなり面白い。
消毒用アルコールについては、別記事で広い面への追加試験も行った。

4. 水+ティッシュ
ほぼ変化なし。
水で落ちてくれれば、この記事は半分の長さで済んだ。
世の中はそこまで親切ではない。
5. Mr.ウェザリングカラーうすめ液
こちらも大きな変化は見られなかった。
用途が違う。
それだけである。
「うすめ液」という名前だけを見て、
全部が同じような仕事をすると思ってはいけない。
人間が勝手に同じ棚に並べているだけで、液体側には液体側の事情がある。
6. アルコールウェットティッシュ
ある程度の変化は確認できた。
ただし、含まれる液量や摩擦条件を一定にしにくい。
便利ではある。
しかし模型の精密作業では、少し曖昧だ。
緊急避難的には使える。
再現性を求めるなら、液体を直接使う方が扱いやすいと感じた。
7. そのまま
変化なし。
当然である。
しかし実験では、その「当然」を置く意味がある。
何もしなければ何も起きない。
その基準があるから、他の変化が分かる。
8. ガイアカラー T-06M
今回、もっとも印象的だった。
かなり落ちる。
しかも、ただ強いだけではない。
細い綿棒を使えば、
「ここだけ消す」
という操作がしやすい。


そして24時間後。


アルコールが時間経過で苦戦する一方、T-06Mはまだ仕事をする。
この差は大きい。
T-06Mについては、
どこまで狙って消せるのか
に絞って別記事で詳しく検証した。

24時間乾燥後の比較
24時間乾燥させた試験片では、方法ごとの差がより分かりやすくなった。

同じ液体でも、
いつ拭くか
によって結果は変わる。
失敗に気づいたなら早い方がいい。
模型に限った話ではないのだろう。
Discussion ― 考察
今回の結果から分かったのは、
一番強い液体=一番使いやすい液体ではない
ということだ。
Mr.カラーうすめ液は強い。
T-06Mも強い。
しかし消毒用アルコールには、
強すぎないからこその扱いやすさがあった。
広い面を比較的穏やかに修正したい。
そんな場合、消毒用アルコールには意味がある。
一方、
モールドの横だけ。
この線だけ。
ここから先は残す。
そんな修正ならT-06Mが強い。
模型の世界は、
全部消すか、
全部残すか、
ではない。
0.5mmだけ過去を変えたい世界なのである。
Limitations ― 本実験の限界
今回の実験には条件がある。
使用したのは主にガンダムマーカー・メタバイオレット。
試験パーツはトップコートなし。
異なるガンダムマーカー色。
塗装済みパーツ。
トップコート後。
こうした条件では結果が変わる可能性がある。
また、拭く力や液量も完全な機械制御ではない。
つまり、
「この液ならどんな条件でも必ずこうなる」
という実験ではない。
今回の条件では、こうだった。
それだけである。
一度の実験ですべてを語ろうとするから、人は間違える。
条件が変われば、また試せばいい。
Conclusion ― 結論
今回の8条件比較では、
確実かつ狙った範囲を落としやすかったのがT-06M。
そして、
家庭用品として予想以上の実用性を見せたのが消毒用アルコール。
という結果になった。
特に印象的だったのは乾燥時間だ。
アルコールは24時間経つと苦しくなる。
T-06Mは、それでも仕事をする。
だが、最強の液体を決めることが目的ではない。
重要なのは、
何を消したいのか。
広い面なのか。
細い線なのか。
塗った直後なのか。
翌日なのか。
そこが違えば、答えも変わる。
ガンプラを作れば失敗する。
塗ればはみ出す。
貼れば曲がる。
削れば削りすぎる。
それでいい。
必要なのは、
失敗しないことではない。
失敗したあとに戻れることだ。
実験とは万能の答えを作ることではない。
「この条件では、こうだった」と、
人間の思い込みから結果を切り離すことだ。
ガンプラは逃げない。
こちらが失敗しても、次に試す余地はまだ残っている。
だからまた試せばいい。
それが、ガンプラ実験室である。



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